
『 北渓、俺はよ、猫を連れてこいと言ったんだ。
こんな得体の知れねぇヤツらお呼びじゃねぇぞ 』
白い長髪を頭上に束ねた威圧感ある老人が言った。
その顔には深い皺が刻まれ、目の奥の眼光は鋭い。
これがあの北斎か、僕はちょっと感動していた。
シンディの寿命がかかったミッション中とはいえ
こんな歴史上の大物と出会えるなんてラッキーだ。
北斎の家に通された僕らは北渓さんの後ろに座り
その緊張感あるやりとりを、ただ黙って見ていた。
『・・・っと、ちょっと 』 僕が感慨に浸っていると
脇腹に何かが当たっている。シンディの肘だった。
『 こんな頑固そうな老人どうやって説得すんの?』
彼女は小声で僕に耳打ちする。僕にも分からない。
『 とりあえず北渓さんに任せよう 』 僕は返答した。
『 は!先生!確かに猫は見つかりませんでしたが
そこらの猫よりずっと賢い猫が見つかりました!』
北渓さんは北斎の前で正座して、熱弁をはじめた。
『 その猫は言葉を解し、先生の求める姿勢なども
たちどころに理解して応える能力まで持ちます!』
・・・何だか話の雲行きが怪しくなってきた。
そして北渓さんはシンディの方に両手をかざした。
『 彼女こそ!先生の求める猫を超える、猫娘!』
…沈黙。お笑い芸人が滑ったような空気が流れる。
シンディは案の定、『 は?』 という顔をしていた。
北斎は呆れ顔のまま、シンディに視線を向ける。
『 ね?先生、猫っぽくないですか?』 『・・・』
北斎は北渓さんの言葉を完全無視して言い放った。
『 こんな女に何ができる? 何の価値もねぇな 』