
北斎はその視線を受けると「ちっ」と舌を鳴らし
『国芳なんざ関係ねぇ』と吐き捨てるように言った。
北渓さんはその絵をまじまじと見て感心していた。
『 国芳がこんな絵を描くとはねぇ…。いや、ホラ
アイツは荒々しい武者絵を描くじゃないですか 』
『 そうだねぇ 』 お栄さんが絵を畳の上に落とした。
北渓さんはそれを肴にして茶碗に入った酒を飲む。
『 国芳は相当な猫好きなんだろうね。じゃなきゃ
ここまで生き生きした猫の絵は描けないだろうよ 』
お栄さんは艶っぽく笑うと、北斎に向き直った。
『 さ、猫は連れてきたから、さっさと描いとくれ。
阿蘭陀人から頼まれた絵が全く進んでないんだ 』
オランダ?ああ、そうか。この頃の日本は鎖国を
してたけど、オランダとは国交があったんだっけ。
・・・ん?猫を連れてきた?
『 あ、さっき集まってきた猫ってもしかして… 』
僕がそう言うと、お栄さんはケロッとした様子で
『 ああ、アタシが連れてきたやつさ 』 と返した。
そうだったのか…何か不自然だとは思ってたけど。
『 アンタすごいねぇ。猫が踊ってるところなんて
初めて見たからさ、面白くて沢山つかまえたよ 』
彼女はシンディに子供のように無邪気に言った。
シンディは照れ臭そうに 『 はぁ…どうも 』 と返す。
そこへ北斎が割って入った。『 分かった分かった 』
『 描いてやるから、踊ってる猫を大人しくさせろ。
俺が描きてぇのは生き生きとした自然な猫の絵だ 』
そして筆をとり、ディランの周りの猫を凝視する。
『 猫娘、おめえも描いてやるから、その隣に座れ 』