
よし、北斎の興味をうまく惹きつけられたようだ。
あとはシンディが能力を使えば作戦完了だろう。
僕は彼女に目で合図を送る。『 今だ、やれ 』 と。
相変わらず彼女の表情は乗り気ではなさそうだ。
やはり北斎からの暴言にまだ気を悪くしてるのか
あるいは、僕がアドリブで勝手に話を進めている
のが何となく面白くないのか、どちらかだろう。
とはいえ、このチャンスを逃したら北斎に彼女の
肖像画を描いてもらうという難しいミッションは
クリアできない。シンディはやるしかないはずだ。
彼女はふぅ、とため息をつくと、ディランの膝の
上でくつろいでいる三毛猫に右の手の平を向けた。
ああ、これでようやく1つクリアか。長かったな。
僕が安堵したのも束の間、彼女は微動だにしない。
その姿勢を保ったまま、こちらをずっと見ている。
そして僕に言った。『 早く 』 ・・・え?何を?
僕が困惑している様子を見て彼女は続けて言った。
『 曲とリズムが無いと踊らせられないんだけど 』
それって・・・え!俺が歌うの?いま、ここで?
気づくと、その場にいる全員が僕に注目していた。
空気的には『 さっさと歌え 』 といったところだ。
何だ、この無茶ブリされた芸人みたいな状態は。
江戸時代の曲なんて知らないよ?楽器も無いし。
アカペラで歌えて、猫にちなんだ曲がいいのか…。
僕の経験から言うと、この手の無茶ブリにおける
思考タイムは5秒だ。それを超えると反応が鈍る。
僕の脳はフル回転し、ある光景が頭に浮かんだ。
猫の歌、江戸時代にもあるもの… 『 カステラ!』