
僕が制止する声は届かない。すでに彼女の後ろ姿は
大名行列に向かい、ここから50m先を走っていた。
ちょうど下り坂で彼女の走るスピードが速いのだ。
マズい、今から彼女を追いかけても間に合わない。
このままディランが大名行列を横切ることになれば
・・・無礼打ち、確か問答無用で斬られてしまう。
僕は足元に落ちていた手頃な大きさの石を拾った。
スマン、ディラン。でも斬られるよりはマシだ。
彼女と大名行列までの距離は残り約100メートル。
この1球が当たらなければ、彼女は斬られて死ぬ。
僕の頭の中に「巨人の星」のテーマ曲が流れてきた。
石を握った手に汗がにじむ。まさに一球入魂だ。
僕は大きく振りかぶり、走る彼女の背中を狙った。
『 いくぞ!大リーグボール!』
僕の手から直径10センチ程の石が投げ出された。
その石は彼女の背中に向かって勢いよく飛んでいく。
球速100kmくらいか…よし!これなら当たるはず!
僕がストライクの手ごたえを感じて安心した瞬間
ディランの姿がいきなり僕の視界からサッと消えた。
『 え?・・・何!?』 よく見ると彼女は転んでいる。
僕が投げた石は、前のめりに倒れた彼女を通過して
そのまま大名行列の方に球速100kmで飛んでいく。
あ、これマズくね?大リーグボールは止まらない。
そしてそのまま、石は行列の先頭を歩く馬の横腹に
「 バスッ!」と乾いた大きな音を立てて命中した。
ヒヒーン!という馬の絶叫、前脚を振り上げて暴れ
乗っていた侍は振り落とされ落馬。大騒ぎになった。