
もはやそれ以外に解決方法は無いように思えた。
あの我の強い、葛飾北斎という頑固な職人絵師に
肖像画を描かせるなど、普通の方法では無理だ。
それならば、この時代における絶対的な権力を使い
無理矢理にでも描く状況を作るしかないだろう。
お上の命令は絶対、逆らえば切腹、という時代だ。
さすがの北斎もこの方法を使えば従うに違いない。
宇宙船内のモニターを見ると、カウントダウンの
タイマーは残り61時間を切っていた。約2日半。
今日はもう夜で動けないから、実質2日だろうな。
そして絵を描かせるまでの時間と、上手くいって
実際に描く時間を逆算すると…間に合うだろうか?
もはや残り時間はあまり残ってないように思えた。
僕は焦る気持ちから命令的にディランに指示した。
『 時間がない。とにかく家斉に変身するんだ 』
もともと、ムーピーは人の思考に共鳴する生物だ。
相手の脳波を受信して姿やカタチを変化させる。
ディランも僕の焦りを察したらしく、強く頷いた。
『 わ、分かりました。とにかくやってみます 』
彼女は立ち上がり、目を閉じる。すると着ている
着物や髪の毛がボンヤリと雲のように霞んでいく。
久しぶりにムーピーが変化しているのを見るな。
やはり神秘的な生物だ。本来はスライム状の姿で
着ている衣服や、持ち物も再現することが出来る。
・・・しばらくして、彼女の変化が止まった。
しかし、見た目は霞がかかったディランのままだ。
何だ?僕が不審に思うと、彼女は困惑して言った。
『 あの〜、徳川家斉さんってどんな姿ですか?』