
僕とシンディは声のする方へと即座に振り向いた。
すると、正座しているディランの太ももの上で
三毛猫が体を丸めて、くつろいでいるではないか。
彼女は穏やかに猫の頭や背中を優しく撫でていた。
とても野良猫を相手にしていると思えない光景だ。
そういえば彼女はムーピーか。人間ではないから
猫を惹きつける気配を発してるのかもしれないな。
『 どっから入ってきたの?』 シンディとディランが
その猫について話している時、北斎は前のめりで
猫の様子を凝視していた。…これはチャンスだ。
お金が無いなら、お金に代わる何かを出せばいい。
『 と、いうように、彼女は野生の動物を手なづける
特技を持っています 』 僕は北斎の方に向き直った。
北斎は猫に注目しているが話は聞いているようだ。
『 そしてこちらのシンディ!彼女はその動物を
何と、自由自在に踊らせることができるのです!』
僕がオーバーな仕草でシンディの方に手をかざすと
北渓さんの方が 『 おおっ! 』と反応を示した。
北斎は表情を変えず、アゴに手をあて黙っていた。
しかし、手ごたえアリだ。僕は演説を続けた。
『 見事に成功したら、彼女の絵をどうでしょう?』
僕らは旅芸人、芸で勝負するなら納得するはずだ。
僕のアドリブは「ハッタリ」へと進化していった。
しかし、彼女の能力は本物だ。「 踊(オド) 」を使い
その猫を踊らせる程度のことなら簡単にできる。
あとは北斎がこの提案を受けるかどうか・・・。
北斎はアゴに手をあてたまま、ニヤリと笑った。
『 面白れぇ、その芸、見せてもらおうじゃねぇか 』